会陰ヘルニア

こんにちは！

 

今回は当院での治療の紹介をします。

 

会陰ヘルニアという病気に関してのお話です。

 

会陰ヘルニアとはなんぞや？

多くの方は「ヘルニア」と聞くと、人の腰痛のような腰の「椎間板ヘルニア」を思い浮かべるかもしれません。そもそも「ヘルニア」とは「体内の臓器が本来あるべき部位から逸脱した状態」のことをいいます。

 

ですので、椎間板ヘルニアは椎体と椎体の間にありクッションの役割をしている椎間板物質が何らかの原因ではみ出し、椎骨の中を走る脊髄に触れたり圧迫したりすることで痛みや麻痺を起こす病気です。

 

他に「ヘルニア」の名のつく病気として、臍ヘルニア（でべそ）や鼠径ヘルニア（太ももの付け根の「鼠径」という穴を通ってお腹の中の脂肪や腸が出てくるもの）などがあります。

 

では「会陰ヘルニア」とはどこのヘルニアなのか。「会陰（えいん）」とは「肛門と外陰部の間の部分」のことをいいます。ざっくり言うとお尻付近です。

本来直腸の横にあって、それをまっすぐに支えている筋肉がある原因によって萎縮することで支えがなくなり、腸がその筋肉の間を抜けて蛇行し排便がしにくくなる病気です。

 

ウンチが出づらいので余計に踏ん張ってしまいます。すると症状はより悪化していき、場合によっては膀胱も反転してヘルニアを起こすこともあり、その場合は排尿困難を起こし、危険な状態になってしまいます。

 

症状はもう前述してしまいましたが、ウンチが踏ん張るけど少ししか出ない、お尻の脇が膨れている、尿があまりでないなどです。

 

原因としてはよくわかっていないそうですが、男性ホルモンの関与や腹圧の上がる他の病気の存在、事故などが考えられています。他に病気が認められず事故でもなければ、未去勢のオス犬での発生がほとんどです。

 

会陰ヘルニアは直腸検査でほぼわかります。直接肛門に指を入れて直腸の蛇行や筋肉の緩みを確認します。膀胱の位置や他の病気の有無を確認するためにレントゲン検査や超音波検査などの画像検査を組み合わせて行います。

 

では治療はどうすればいいのか。根本的な治療としては手術です。

 

自分の筋肉やインプラントを使って、萎縮してしまった筋肉の代わりに直腸をまっすぐに支える『壁』を作ってやります。

 

ここからは当院での治療法です。

 

様々な治療法がある中で、当院ではその『壁』を作るために人の鼠径ヘルニアなどの治療に用いる「メッシュ」と呼ばれるインプラントを用いています。また同時に腸をまっすぐに引き伸ばすために結腸固定と、膀胱の逸脱を防ぐために膀胱固定を実施しています。

 

メッシュを用いるメリットとしては、再発が少ないことが挙げられます。

自分の筋肉を用いて手術する方法は、インプラントを用いないため免疫反応が起きないのが利点ではあり、一時的には症状は改善するのですが、時間が経つにつれてその手術で用いた筋肉も萎縮してくることで、再発することが懸念されます。

しかしメッシュを用いた方法では、メッシュと組織とを縫合している糸が切れない限りはそれ自体が緩むことはありません。同時に結腸固定や膀胱固定も行うので、再発は極力防げる方法だと思います。

 

またデメリットとしては、メッシュがどうしても体にとって「異物」になるので、それに対する「免疫反応」が起こる可能性があることです。もし反応すると手術した部位から膿のような液体が出たりすることが稀にあります。しかし、そのような免疫反応を起こす犬はごくわずかであり、実際人の鼠径ヘルニアの治療にも用いられているので、異物反応は起きにくいものだと考えられています。

会陰ヘルニアの症例の手術直前の写真です。すでに開腹して結腸を引っ張って固定しているので、やや肛門はヘコんでいます。肛門を中心に３時から７時の方向がヘルニアとその影響で貯留した漿液で腫大しています。便もかき出してしまったのであまり腫れているようには見えませんが（汗）。

術後の様子です。左右どちらか片方のヘルニアであってもメッシュは「閉鎖孔」という骨盤の穴を通すので、肛門の左右に切開創ができてしまいます。術後は肛門が腫れているように見えますが、数日するとちゃんともとに戻ります。元に戻った写真がなくて申し訳ありませんが（汗）。

 

肛門から指を入れるとちゃんと直腸がまっすぐになっているのが確認できます。術後は術部の感染予防をしっかりするだけで、特に通院や処置は必要ありません。

 

以上が当院での会陰ヘルニアの治療の紹介です。

 

感覚での話ですが、たまたま別の件で来院された方で、会陰ヘルニアで手術しても何度も再発をして、結局便を指でかき出しているわんちゃんをたまに見かけます。そういうわんちゃんの飼い主さんは「手術しても再発する病気だから仕方ない」と思われている方が結構いらっしゃいます。

 

それはおそらく違うと思います。「絶対１回の手術で完璧に治せる」というのは確かに言い過ぎかもしれませんが、そのくらいの気持ちで術式を選択したり、飼い主さんとわんちゃんの不安や苦痛を取り除くのが僕たち獣医師の仕事だと思います。

 

会陰ヘルニアもどんな病気もですが、「再発する病気だから仕方ない」と思わず、「ほかにいい方法がないか」をぜひセカンドオピニオンとして他の病院の先生にも聞いてみるのもいいかもしれません。

 

話が脱線しました。

 

会陰ヘルニアは術式によっては再発は極力防げると思います。もし、これどうなのって思われた方はぜひお気軽にお問い合わせください。